生活にまつわる怪しい情報と、身を守る知恵をご紹介します。

現在の位置 : トップページ > 注目情報 > 吉村医院

吉村医院

ドキュメンタリー映画『玄牝(げんぴん)』

2010年11月に、ある産科医院を扱った映画が公開されました。監督は、『萌の朱雀』で知られる河瀬直美氏です。

ドキュメンタリー映画「玄牝(げんぴん)」オフィシャルサイト。

現時点でサイト作成者は、映画に関しては未見ゆえ、映画そのものに関する論評は控えますが(見ても胸糞悪くなるだけでしょうから)、この医院、過去にもテレビやドキュメンタリー映画で好意的に取り上げられる一方、医療関係者の間ではかねてから問題視されていたところです。

吉村医院とは

吉村医院とは、愛知県岡崎市にある産科医院で、院長は吉村正氏。昔ながらの「自然分娩」にこだわっているらしく、わざわざ遠隔地からやってくる“自然派ママ”に支持されているようです。吉村医師は作務衣姿、妊婦に薪割りスクワットというようなことをしています。

異常分娩は、他院に転送

吉村医院を批判している医師ブロガー・NATROM氏が、吉村医院の問題を取り上げています。

マクロビオティックでオーガニック

「世界をつつむ東洋の宇宙観」とやらは、母体の命を救うのになんら貢献しなかった。一方で、「ほんのつめの先ほどの幼稚な認識」が母体の命を救ったのだ。現代の日本で、マクロビオティックやらオーガニック料理やらの贅沢が許されているのは、科学や医学の発展のおかげである。幼稚な認識とはいったいどちらなのか。

児は出生後3日目に亡くなった。その3日間を与えたのは吉村先生ではない。現代医療である。現代医療がなければその3日間どころか、母体も死亡していた。そもそも、自然分娩にこだわらず、初めから帝王切開を選択していれば、児が死ぬことはなかったろう。我が子の犠牲を目の当たりにし、選択の過ちを悔い自然分娩はときに危険なものであることに気が付いたというのなら、まだ理解できる。しかし、コラムの筆者は我が子が亡くなってもなお、吉村先生に感謝している。我が子の命よりも、「本当の幸せ」とやらのほうが大事であるらしい。私は、我が子イサクを殺していけにえとして神にささげようとしたアブラハムの逸話を思い出した。死んだ児は「幸せなお産」のために、いけにえになったのだ。ただ、見方を変えれば、コラムの筆者が吉村先生に感謝し続けるのも当然なのかもしれない。吉村先生を批判する気持ちが生じた瞬間、我が子の死にもっとも責任があるのは誰か?我が子を殺したのは誰か?という問いに対峙しなければならないからである。その問いに答えるのは絶え難いものであろう。

 私はこの話が吉村医院を中傷するために誰かがでっちあげた捏造であることを切に願う。しかし、そのためだけに、お店のサイトをまるまる作り上げるだろうか。細部はともかくとして大筋は事実であると考えざるを得ない。少なくとも、このコラムの筆者が「オーガニック料理やマクロビオティックに好意的な顧客は、他院で帝王切開の適応ありと診断された初産の骨盤位の妊婦を経膣分娩にこだわって3日間もねばって結局は出生児は死亡したが幸せなお産であったという話に共感するだろう」と考えているのは事実であり、もうそれだけで私は恐怖を感じる。

REBORN産院情報によると、「帝王切開率 0%(他院に紹介)」「前回帝王切開した人の試験分娩 症例によりトライアルを行う 成功率ほぼ100%」「逆子の試験分娩 症例によりトライアルを行う 成功100%」を謳っていますが、吉村医院がモットーとする「自然分娩」が行えないような症例になると、周辺の他の病院に転送しているので、それはカウントに含めず、「帝王切開ゼロ」「(自施設での)成功100%」というのが真相と思われます。現に女優の吉本多香美が分娩中に他院に救急車で緊急搬送されています。岡崎市周辺の、他の病院の産科病棟は常にピリピリしているらしく、「吉村からの搬送です」と聞くと、医師がそれ以上何も言われなくても新生児蘇生の準備を始めると聞いています。

吉村医院の哲学

吉村氏の主張を読むと、子を持つ親ではないサイト制作者も薄ら寒いものを感じます。

 自然分娩で産めない命は「助かっちゃいかん命」で、現代医学の介入によって死なずに無事に生まれた人は、「悪い種」を撒いているのだそうだ。産科医療に限らず、医学によって助かったすべての人に対する侮辱ではないか。

 おそらく帝王切開を受けて児は生まれたのだが、「神が選択してこりゃだめだっていうものをだよ、 むりやり出したなんてことは天に対する大罪」なのではなかったのか?現代医学によるお産を、「天に対する大罪」だなどと批判しておきながら、うまくいかないときには現代医学に頼るというのは都合が良すぎはしないか。自然分娩を行う施設であっても、なんらかの異常があれば、現代医学による出産が可能な施設に搬送してもよいし、搬送するべきである。現代医学に頼るな、と私は言っているわけではない。現代医学に頼ることもあるのだから、それなりに敬意を払うべきであろう。

 一つ気がかりな点がある。妊婦や家族も、上記引用したような話を聞いているわけである。自然分娩で健康な子を産めた90%以上の妊婦は、それは幸せであろう。自分は、正しいお産ができた良い遺伝子を持っている人間であり、病院で産んだ他の母親と違って「本当の母親」になれるわけである。しかし、他院に搬送された妊婦はどう感じるであろう?自分は「遺伝子的に駄目な人」で、子は「神が選択してこりゃだめだっていうもの」を「天に対する大罪」を犯しつつ「むりやり出した」「助かっちゃいかん命」であることになる。それに、自然分娩で産めたとしても、遺伝病や先天性心疾患や染色体異常など、一定の確率で何らかの疾患を持つ子が生まれることは避けられない。「西洋医学」の介入がないと助からない子だっているのだ。そのような子の存在を知っていてもなお、吉村正医師は、「西洋医学が入ってきてからそういうのを助ける。助かっちゃいかん命が助かって、また悪い種を蒔いとる」と言ったのであろうか。

これを生まれ出る命の選別と言わずして、何と言えましょう。

子どもは親を選べない

“自然派ママ”がオーガニックやらマクロビオティックやら、自己責任で自分のライフスタイルを実践するのは自由です。しかし、子は親を選べません。子どもは独立した人格であって、親の所有物のではありません。別人格である子どもの命を危険にさらす権利はありません。

inserted by FC2 system