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毎日新聞の小島正美記者と山田泰蔵記者

小島正美記者によるトランス脂肪酸報道

2010年11月12日付の毎日新聞に、小島正美記者による署名記事が出ました。

記者の目:トランス脂肪酸の含有量表示=小島正美(生活報道部)

◇義務化は尚早、まず実態調査を

 心疾患のリスクを高めるとされるトランス脂肪酸について、消費者庁は10月、食品事業者に自主的な表示を求める指針案を公表した。今後は義務化を検討するというが、そもそもトランス脂肪酸は日本人にとって脅威ではない。まずは、健康にどんな影響を与えているのか調査が必要で、表示の義務化は尚早だと思う。

 トランス脂肪酸は油脂の一種。液体の植物油をマーガリンやショートニングなどの固体に加工する時に生じる。ケーキ、ドーナツ、パン、マヨネーズ、クリーム類に多く含まれ、サクサクした食感が出る。取り過ぎると動脈硬化や心疾患のリスクが高くなることから、世界保健機関(WHO)は03年、1日当たりの摂取量を総エネルギー量の1%未満(日本人は2グラム前後に相当)となるよう勧告した。

 現状はどうか。食品安全委員会によると、日本人の平均摂取量はエネルギー比で約0・3~0・7%。1日の平均摂取量も約0・7グラムで、取り過ぎを心配する数字ではない。一方、米国は約5・8グラム(2・6%)と飛び抜けており、表示が義務化されている。

 日本の消費者庁が求めるのは、食品100グラム当たりの含有量を包装紙やサイトで表示すること。しかし、本当に必要なのだろうか。

◇日本人に緊急な脅威ではない

 そもそも、動脈硬化や心疾患の発症を促す要因は、脂肪や塩分、アルコールの取り過ぎ、喫煙、肥満、高い血糖値、高血圧、ストレス、運動不足などたくさんある。トランス脂肪酸は一部に過ぎない。

 しかも厚生労働省の人口動態統計によると、日本人の心疾患の年齢調整死亡率(年齢構成の違いを補正した死亡率)は男女とも90年代半ばから低下している。心疾患死亡率は米国、ドイツ、英国、スウェーデンなどに比べ、約3分の1~2分の1の低さだ。どうみても、トランス脂肪酸は日本人にとって緊急な脅威とはなっていない。

 確かに、東京大学や女子栄養大学などの調査で女子学生の約1割、30~40代女性の約3割は、トランス脂肪酸が摂取エネルギーの1%を超えていた。ケーキなど菓子類を多く食べているためと推測される。しかし、日本の若い女性に心疾患は多くない。必要なのはむしろバランスのとれた食事の指導だろう。

 食品安全委員会事務局次長として、トランス脂肪酸の問題を調べた一色賢司・北海道大教授(食品衛生学)は「トランス脂肪酸が欧米で関心を集めたのは脂肪全体の取り過ぎが問題になったからだ。トランス脂肪酸だけに目を奪われるのではなく、(悪玉コレステロールを増やすといわれる)飽和脂肪酸をはじめ脂肪全体の取り方を指導する方が効果的だ」と指摘する。

 食の安全に関心の高い日本生活協同組合連合会でさえ「トランス脂肪酸が日本人の健康を脅かしているという科学的な根拠を示さないまま、表示だけが先行している唐突感がある」(安全政策推進室)と述べている。

◇無用な恐怖心あおる懸念も

 カルシウムやビタミンCなどの栄養素は、厚労省の食事摂取基準に基づき、年代ごとに必要な摂取量や上限量の目安が示されている。しかし、トランス脂肪酸は日本独自の具体的な基準が決まっていない。そんな中で表示だけが先行すれば、含有量の数字が独り歩きし、トランス脂肪酸を過度に怖がる空気が生まれるのではないか。

 つい最近、乳がんの摘出手術を受けた女性読者から次のような手紙をいただいた。「トランス脂肪酸が乳がんとも関係しているのではと心配です。マーガリンが使われている食パンを食べるだけで乳がんの再発が気になります」

 トランス脂肪酸とがんの関連を示す明確なデータはないので、食パンくらいは気楽に食べましょうと伝えたい。私の周りにも、トランス脂肪酸に過剰な恐怖心をもつ人がいるが、「他の脂肪酸と同じように体内で消化、吸収され、蓄積するようなことはない」(欧州食品安全機関)のだ。

 発足1年余りの消費者庁が実績を上げたい気持ちは理解できるが、功をあせって拙速な指針を決め、検査費用で製品のコストだけが上がるような事態は避けたい。トランス脂肪酸の危険性を過剰に伝えがちなマスコミも、もっと冷静になる必要性を痛感している。

 最近は、外食産業やマーガリン業界などでトランス脂肪酸を減らす取り組みが進み、含有量をぎりぎりまで減らしたマーガリンも出ている。

 こうした変化を踏まえ、食品安全委員会はトランス脂肪酸のリスク評価を独自に始めている。表示を決めるのは、その結果を待ってからでも遅くはないはずだ。

2010年11月12日 毎日新聞東京朝刊

ごもっとも。私に言わせれば、「無用な恐怖心を煽」ると、「マーガリンはトランス脂肪酸がこんなに入っていて危ない。うちの安全な○○を……」という不安煽動商法が跋扈するもとになります。

小島正美記者は、「危ない話ほどニュースになる」でまとめたとおり、環境ホルモン問題の頃、散々煽り報道を行っていた過去があります。その反省から、現在では安易な警鐘報道に警鐘を鳴らす活動をしています。

一方、残念な報道

一方、同じ毎日新聞に、同じトランス脂肪酸を巡るダメな記事が出ました。

トランス脂肪酸:含有量表示へ 心疾患との関連指摘

◇女性、若者に高摂取層/メーカーに削減の動き

 心筋梗塞(こうそく)や動脈硬化の原因とされるトランス脂肪酸について、食品包装やホームページなどでの含有量表示が日本でも進むことになった。消費者庁が11月にも含有量表示を行うよう業界に求め、義務化についても来夏までに検討する。これまで海外では問題視されながらも、「日本人の摂取量は少ない」とされていたが、若者や女性に高摂取層があることが判明したためだ。【山田泰蔵】

 トランス脂肪酸は油脂の構成物質の一種。主にマーガリン、ショートニングなどを植物油から製造する工程や脱臭工程での副産物としても生じるため、それらを原料にしたパンやケーキなどに含まれている。また、揚げ油に含まれるとサクサクとした食感が出る効果もあり、フライドポテトなど外食でも広く使われてきた。

 世界保健機関(WHO)は03年、心疾患のリスクが高まるとして、1日当たりの平均摂取量を総エネルギー摂取量の1%(平均的な日本人の場合約2グラム)未満にするように勧告。含有量表示を義務化する動きは05年以降、北米から南米やアジア、オセアニア諸国に広がり、ニューヨーク市やスイスのように、含有量の規制に踏み込んだ地域もある。

 日本では食品安全委員会の調査(07年)で1日当たりの平均摂取量がWHO上限値の半分程度(0・7~1・3グラム)にとどまっていたため、「規制は不要」とされてきた。しかし、08~10年にかけて「若年層や女性で摂取量が多い」との研究報告が相次ぎ、方針転換した。

 東大大学院社会予防疫学研究室が09年末に発表した調査では、男女ともWHOの上限値に近い平均1・7グラムで、女性の25%、男性の6%が上限値を超えた。調査は30~69歳の男女225人を対象に16日間の食事から摂取量を推定。特に都市部に住む30~49歳の女性の摂取量が高く、菓子類の影響が大きかった。消費者庁食品表示課は「国内にも摂取量の多い層がいる。また、最近の研究でトランス脂肪酸のリスクは、これまで理解されていた以上に高いことも分かってきた」と話す。

 国内食品メーカーでは含有量の削減や公表の動きがあり、マーガリン業界は製品100グラム中に平均8・1グラム(06年)あった含有量を10年には同1・8グラムに減らした。ミスタードーナツやケンタッキー・フライド・チキンなど数年前から低減に取り組んでいる企業もある。日本生協連や雪印メグミルクグループ、日清オイリオは自社ホームページで製品に含まれるトランス脂肪酸量を公表している。「消費者庁に足並みをそろえて公表を進めていきたい」(日本マクドナルド)など前向きな事業者も多く、義務化を待たずに任意での表示が進みそうだ。

 ただ、脂質の中で心疾患のリスクを高めると指摘されているのはトランス脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸やコレステロールも問題視されている。このため、消費者庁は食品事業者に対し「トランス脂肪酸ゼロ」とうたう場合などには、飽和脂肪酸やコレステロールについての含有量表示を併せて行うよう求める方針だ。

◇栄養成分表示も義務化

 トランス脂肪酸の表示の推進に併せ、消費者庁はエネルギー(カロリー量)や炭水化物、たんぱく質などの基本的な栄養成分表示を義務化する方針だ。

 トランス脂肪酸のリスクは「喫煙や糖尿病、高血圧などほかの危険因子と比べるとかなり小さい」(厚生労働省「日本人の食事摂取基準」)とされており、トランス脂肪酸の表示義務化以前に基本的な成分の表示義務化が必要と判断した。

 日本では原材料や食品添加物を表示する原材料表示は義務付けられているが、栄養成分表示は原則としてメーカーに委ねられている。海外では「慢性疾患の自主的な予防に役立つ」として栄養成分表示の義務化が進んでいるが、日本では「カロリー半分」と特定の成分量を強調する場合などでしか、たんぱく質や脂質などの含有量表示は義務化されていない。

 同庁は11月にも学識経験者や消費者、業界関係者などによる検討会を設置し、来夏まで、トランス脂肪酸を含め義務化の範囲をどこまで広げるか検討する。

2010年10月19日 毎日新聞東京朝刊

消費者庁の表示義務化は、あたかも、トランス脂肪酸がメインで、「栄養成分表示“も”義務化」と言いたげなようですが、大事なのは栄養成分表示のほうで、本末転倒です。栄養成分表示があってこそ、某“バランス栄養食”の正体を、「脂質が(ポテトチップス並みに)豊富に含まれている、ビタミンとミネラルが添加されたクッキー」と見抜けるわけです。

>小島記者にダメだしされた山田記者

山田記者は、以前「エコナ」問題で、次のような記事を書いていました。

エコナ問題、食品安全委を十分指揮できず=山田泰蔵(生活報道部)

◇消費者庁よ、司令塔になれ 一定成果も、「不安」置き去り

 「消費者目線」に立った行政を進めようと鳴り物入りで9月に誕生した消費者庁。鳩山内閣が発足した9月16日、花王が「安全性への懸念が指摘されている」として発表した特定保健用食品「エコナ」(食用油)の出荷・販売自粛問題への対応で、その力が試された。福島瑞穂消費者担当相らは、前例のない特保の再審査手続きを進め、直接担当する分野では成果を上げた。だが「エコナを使ってきた私たちはどうすればいいの」という消費者の不安は置き去りにされたままだ。

 「安全性の評価は(内閣府所管の)食品安全委員会が担当する」との法律上の原則に縛られ、消費者行政の司令塔として食品安全委を十分指揮できなかった。法制度でがんじがらめにされた縦割り行政の壁は厚いが、そこに果敢に踏み込まなければ、消費者の信頼は得られない。

 エコナ問題で消費者庁が直面したのは特保制度の不備だった。花王が販売を自粛したのに国が特保として健康にいいという「お墨付き」を与えている矛盾を解消するための一時停止が、制度上できなかったのだ。このため、消費者庁は緊急にプロジェクトチームを発足させ、10日間で取り消しの可否を判断する再審査手続きに入るなどの対応策をまとめた。対応策が今月8日に発表されると、花王は許可の自主返上を表明した。

 福島担当相は記者会見で「消費者庁が動いたから自主返上を判断した」と成果を強調した。危険性が科学的に明確にならない段階で再審査手続きに入るのは、従来の霞が関の感覚からすればあり得ないことだった。花王の問い合わせダイヤルがつながらないという消費者の苦情にも即応し、回線増設を指示するなど、法令の運用でも現場の対応でも「消費者目線」に立った。この点は大いに評価したい。

 だが物足りなさも残る。消費者の最大の関心事であるエコナの安全性について、分かりやすい説明がなかったためだ。消費者庁は「食品安全委で安全性を調査中」という態度に終始し、現段階でリスクがどの程度かを示せなかった。

 「発がん性物質に変わる可能性がある」と欧州で今春指摘されたエコナの不純物について、ドイツの公的リスク評価機関は今年3月「体内で発がん性物質に変化する最悪のケース」を前提とした推定を公表。「体重60キロの男性が1日当たり油20グラムを取る場合は発がんリスクは低く、80グラムでは高い。人工的なミルクしか飲めない乳児は健康上憂慮すべきだ」と示した。現時点で科学的に推定できるリスクの程度を示すことで、消費者が過度の不安を持つことを回避し、企業活動への影響も最小限に抑えられる。消費者庁も食品安全委に安全性の評価を早めるよう要請はしたが、消費者の関心を最優先すれば、ドイツのように現時点でのリスク推定を公表するよう求めることもできたはずだ。

 そもそも、消費者庁設置の最大の狙いは「明治以来続いてきた産業育成中心の縦割り行政を転換する」ことだった。国民側の立場で動く消費者庁が司令塔として、旧来型の発想から抜けられない官庁に積極的に働きかけることが、その前提になる。そのために主務大臣が首相となり、各省庁への措置要求や法令に規定のない「すき間事案」での業者への回収命令など、旧来の法律の枠を超えた権限が法的に与えられているのだ。権限行使という形にとらわれず、食品安全委への要請のようにあらゆる機会をとらえて働きかけていかなければ、存在価値は失われる。

 消費者庁はトラブル対応だけでなく、法制度や政策の企画立案も担う。消費者には分かりにくい食品表示基準も、消費者庁が農林水産省と厚生労働省と協議しながら行うことになった。業界寄りのお役所意識で両省が作った基準の問題を発掘し、大胆に変えることも必要だ。例えば「賞味期限」と「消費期限」という紛らわしい用語を「おいしく食べられる期限」「安全に食べられる期限」と分かりやすくする。そうした小さな取り組みでも他省庁におくせず積み上げていくことが、「国民目線」の司令塔として政府全体を変えることにもつながる。

 「法律上難しいのは分かるが何かできることがあるはずだ」。2日深夜、概算要求などのヒアリングを終えた泉健太政務官が、廊下を歩きながらエコナ問題担当の幹部に声を張り上げた。試金石になったエコナ問題で一定の前進ができたのは、福島担当相ら政治家がやる気を見せ、官僚も知恵を出して支えたからだろう。あとは司令塔としての意思を強く持ち、行動に移すことだ。小さくまとまれば約200人の最小官庁など霞が関の中でかき消されてしまう。

 行政のあり方を変えるのは困難を伴うが、物申す消費者庁の姿勢は必ず国民が支えてくれるはすだ。

2009年10月20日 毎日新聞

この、山田記者の報道、面白いことに、同じ毎日新聞の小島記者がダメだししています。

消費者委と食品安全委の関係=小島正美(生活報道部)

◇もっと科学的論議、深めよ 「エコナ」気になる感情論

 花王が食用油エコナの販売を自粛し、トクホ許可を返上した。トクホとは飲料や食品などのマークでおなじみの特定保健用食品のことである。

 これを巡って、山田泰蔵記者は10月20日の本欄で「消費者目線に立った消費者庁の果敢な行動力」を高く評価した。でも、消費者目線を気にしすぎて大切な科学的論議がおきざりにされたのではないだろうか。そこに感情や感覚優先のポピュリズム(大衆迎合)的危うさすら感じる。

 まず、エコナ問題の発端を考えたい。今年3月、ドイツのリスク評価機関が注意喚起をしたことから始まる。

 ――乳幼児の粉ミルクに使われる食用油に副産物のグリシドール脂肪酸エステルが含まれ、それが体内で発がん性物質のグリシドールに変わる可能性がある。

 独政府が喚起したのは、私たちが日ごろ口に入れている食用油のことだ。花王が調べたところ、エコナに含まれるグリシドール脂肪酸エステルの濃度は通常の食用油に比べて10倍ほど高かった。そこで花王は、通常の食用油並みに減らすまで販売を自粛した。

 だが、不思議なことに他の食用油は問題になっていない。この化学物質はトクホとして許可されている他の食用油にも含まれている。特にパーム油は他の油に比べて多く含まれるが、業界全体の取り組みは表面上は見られない。

 では、グリシドールの発がん性の強さはどれくらいか。

 国際がん研究機関(IARC)の分類では、5ランク中2番目に強い「おそらく発がん性がある」という2Aランクだ。2Aには、紫外線やアクリルアミド、ベンツピレン、ディーゼル排ガスなどがある。ベンツピレンは車の排ガスや魚の焦げに含まれる。

 アクリルアミドはアミノ酸の一種のアスパラギンとブドウ糖などが高温で反応してできる化学物質だ。高温の油で揚げたり、焼いたりしたポテトフライやかりんとうなどに含まれる。私たちはポテトフライを結構食べるので、発がん性のアクリルアミドを毎日のように摂取している。

 では、食用油とポテトフライのどちらが健康へのリスクが高いのだろうか。

 食品の機能などに詳しい長村洋一・鈴鹿医療科学大教授ら複数の専門家は「同程度では」と言う。長村教授は「ニンジンにも発がん性のカフェイン酸が含まれ、どれくらいなら安全かを冷静に議論することが重要」と指摘する。

 一方、消費者庁の消費者委員会では「発がん性が一切ないことをトクホの前提にすべきだ」「体に入って危ないものは、すぐに却下すべきだ」などの意見が強かった。

 少々感情的すぎないだろうか。トクホの安全性の審査基準を通常の食品以上にすべきかどうかの議論は大切だが、そこには踏み込んでいない。

 一方、消費生活アドバイザーで組織した日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(東京)は10月半ば、「科学的な根拠に基づく議論と説明をしてほしい」との意見書を同庁に出した。ちなみに、エコナで発がん性が問題にされたのは、油成分のジアシルグリセロール(DAG)に次いで実は2度目だ。03年、内閣府の食品安全委員会が「念のための再試験」を花王に求め、いまも審査している。

 なぜ審査が長引くのか。

 「危ないからではなく、厳しく慎重に審査しているためだ。安全性は販売を禁止するほどのリスクではない」。食品安全委の言い分だが、消費者にもっと早く分かりやすく説明する工夫が欲しかった。

 食品安全委の見解は消費者委に送られている。しかし、食の安全を科学的に評価する司令塔の役割は、やはりこの食品安全委が担うべきだと思う。エコナ問題で気になるのは、BSE(牛海綿状脳症)の全頭検査のような政治的判断が見え隠れすることだ。欧米諸国では無駄だとして実施していないが、日本ではいまも続く。科学的論証より感情論が優先している。

 エコナ問題を扱った消費者委は9月に発足したばかりだ。委員は消費者団体代表、弁護士、学者、ジャーナリスト、企業代表など10人。悪徳商法の撃退、適切な食品表示、消費者相談の充実など消費者を守る任務に期待しているが、食品リスクは消費者目線だけでは議論できない。一方、03年発足の食品安全委は14の専門調査会があり、約200人の専門家がリスク評価をしている。科学的分析という点では消費者委はかなわない。

 「食」は国民の健康にかかわる。その科学的で冷静な事実を国民にしっかり説明することは消費者庁に課せられた重要な使命である。今後も消費者委が健康食品などの安全性を審査する機会は多くなるだろう。科学的な論議を深めるためにも、健康、医療、疫学などに詳しい専門家を加えたらどうか。食の安全については食品安全委の見解を優先するといった、両委の関係の整理も必要と考える。

2009年12月17日 毎日新聞

「感情や感覚優先のポピュリズム(大衆迎合)的危うさすら感じる」、身内の記者に対して、よくぞ言ってくれました。

「発がん性が一切ないことをトクホの前提にすべきだ」「体に入って危ないものは、すぐに却下すべきだ」、ハザードベースで物事を見ると、食べるものなどなくなります。「一切ないこと」を「前提」とは、いわゆる「悪魔の証明」というやつです。

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